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Pietje Bell ピチェ・ベル

オランダ映画 (2002)

オランダの作家クリス・ファン・アッブカウデ(Chris van Abkoude)の代表作『ピチェ・ベル』シリーズ(1914~36年)を映画化した第1作。原作は8作に分かれていて、内容も特に連続している訳ではないが、この映画では、第1作の『Pietje Bell』(1914年)を基本に、第4作(時系列順には2番目)と第7作(時系列順には4番目)を交え、映画用に全面的に再構成した内容となっている。オランダ映画では、悪戯好きの少年を主人公にしたファミリー映画が多いが、この映画はその頂点に立つ存在だ。その特徴は、何といってもテンポの良さ。ストーリーが次から次に新らたな展開を見せ、観客を飽きさせない。同じ作者のもう1つの代表作『クラムチェ』(1923年)も1999年に映画化されているが(全訳してあるので、そのうち紹介)、原作に忠実なせいか、進行がゆっくりすぎ、主人公が苦労する場面が多過ぎて、心から楽しめない。それは、別の作家の1941年の原作に基づく『シスケ・デ・ラッツ』(1984年)も同様で、暗い場面が多過ぎる。その点、この映画の主人公ピチェは、明るくて友達思い、ユーモラスだが義侠心もあり、プラス、悪戯も最高レベルと、映画でもなかなかお目にかかれないユニークな存在だ。この種の悪戯物は、アメリカ映画では、ジョン・ヒューズの『ホーム・アローン』シリーズ(1990~2012)や、その変形の『わんぱくデニス』(1993)などでも見られるが、悪戯の質は全く違う。それに、アメリカの悪戯物が行動の強烈さで売っているのに対し、ピチェ・ベルは台詞の面白さも大きな魅力となっている。それが、アメリカ流のドタバタを感じさせない大きな理由であろう。惜しむらくは、脚本のディテールは優れているのだが、全体の構成が不統一な点。3つの原作をつき混ぜたため、途中で映画の雰囲気が変わり、それと同時にテンポが遅くなり、創造的な台詞もなくなってしまう。110分の映画の中で、『黒い手』が本格的に現れるのは105分からなので、このあたりでやめておけば、もっとまとまった映画になったであろう。それでも、私がこの映画が好きなことに変わりはないが。

前半は面白いエピソードを、これでもかこれでもかと積み上げていく。お陰で、ピチェ・ベルとはどんな少年かがよく分かるし、一つ一つの会話や挿話もよく練られていて面白い。仲の悪いお隣のヨゼフの顔にパチンコ→新聞王のパレードを邪魔→それが新聞記事の一面→お姉さんのマルタ先生の教室でのひどいイタズラ→目をつむって歩いて運河にドボン→カト伯母さんの襲来と怒り→貧しい同級生スプルートの家の怖い父ヤン→ヨゼフとマルタの変な会話→ヨゼフの意地悪とニセ情報→靴の修理代の取立て→ヨゼフの授業での怪答弁→子供サーカスでの失敗手品と火事→船に隠れて家出して監禁→強盗の巣を抜け出して警察へ→スプルートが裏切りピチェが嘘つきに→新聞で叩かれどなり込み→隠れ家を見つける。ここからが後半になり、隠れ家で「黒い手」なる義侠少年団を結成し、細かな挿話は続くものの、全体として新聞王とヤンの絡む陰謀を「黒い手」が阻止してロッテルダムの英雄になるところで終わる(ここだけは、『ピチェ・ベル』の紹介の古いバージョンをそのまま利用した。あらすじがあまりに細かいので、二番煎じを避けるため)。

クイントン・シュラム(Quinten Schram)は、1992.7.29生まれ。2017年のインタビューから、撮影時は9歳。父Dave Schramがプロデューサー、母Maria Petersが監督・脚本家になっているこの映画で、面白半分にオーディションに出てみたら、主役になってしまったという嘘のような話。だから、俳優は未経験。それなのに、撮影時同じ9歳で、映画経験も豊富だったホーム・アローンのマコーレー・カルキン顔負けの演技を見せるとは、信じられない。残念なことは、クイントンの映画出演が、この作品と、続編の『ピチェ・ベル2』(2003)だけという点。『クラムチェ』(1999)にも顔を出しているが(3年前の作品なので7歳くらい)、画面に現れるのは秒単位の短さ。下にそのシーンを示す(矢印)。ピチェを思わせるカリスマ性はどこにもない。

なお、スプルート役のフレンチ・ド・フロート(Frensch de Groot)も、ピチェと一緒のシーンが多いのであらすじにも写真が多いが、平凡な顔で、演技も下手なので対象外とする。また、『ホラーバス/オノバルと魔王フェルシ』(2005)で主役になるシェルシェ・プリース(Serge Price)は、ピチェの仲間のケイス役で出ている(後半の、黒い手がスプルートの家にプレゼントを持っていった時、ピチェと一緒に角から除いている眼鏡の少年)。


あらすじ

1930年代のロッテルダムのブレー通り(Breestraat)。そこには陽気なピチェ・ベルが靴修理の小さな店を構えていた。子供は小学校の先生をやっている姉のマルタ(20歳以上)と、腕白盛りの少年ピチェ・ベル(父と同名)。ピチェは、いわばガキ大将で、その日も、エンゲルチェとペイニェの3人で、仇のようなフェールマン薬剤店の親子(父の名はオーゼビエス、息子の名はヨゼフ)、特にヨゼフ(マルタと同じ小学校の先生)を狙っている。ちょうど卵売りが、「おいしい卵が、1個3.5セント」と売りに来る。オーゼビエスは「先週より、1セント高い」と文句を言う。卵売りは「たった、1セントですよ」と言うが〔2.5→3.5なので、40%も値上げ〕、オーゼビエスは「1セントは1セントだ。着る物にだって、お金がかかる」と文句。ここで、横に座っていたヨゼフが、「新しい眼鏡を買ったところでね」と、掛けてみせる。離れた所から隠れて見ていたピチェは、「ひどい顔」とひょうきんに言う。卵売りは「少し、小さいのもありますよ」と、卵を顔の前に出して見せる。ピチェはパチンコを取り出すと、「いくぞ、ハゲ頭」〔オーゼビエスの方〕と言い、卵の真ん中を狙って石を放つ(1・2枚目の写真、矢印は卵に当たる直前の石)。石の勢いで卵の中身はヨゼフの目を直撃する(レンズも割れる)(3枚目の写真)。驚いた卵売りが百個以上卵の入ったバスケットを落とし、「クソッタレの、ピチェ・ベルめ!」と怒鳴ったオーゼビエスが近づこうとして、割れた大量の卵に足を滑らせて転倒。顔中、卵まみれになる(4枚目の写真)。映画の冒頭を飾る、楽しいスタートだ。
  
  
  
  

タイトルが表示され、ピチェたちは逃げ出す。追いかけるのはヨゼフ。3人は交差点で3つに別れるが、当然、ヨゼフはピチェの後を追う。ピチェは、「百万部の新聞」という横断幕を掲げてパレードが行われている大通りに逃げて行く。大通りの警備にあたっていた警官にぶつかると、「やあ、お巡りさん。がんばって」と握手するところがピチェ的。後から追いかけてきたヨゼフは、警官にピチェの行為を告げて逮捕を頼み、そこから追っ手が2人になる。ピチェは楽団の中にまぎれて逃げ(1枚目の写真)、途中でドラムメジャー(パレードの指揮者)が高く放り上げたメジャーバトンを掴み取ると(2枚目の写真)、指揮者の真似をして歩き出す。行く手に待ち構えたヨゼフにメジャーバトンを奪われると(3枚目の写真)、指揮者がいなくなってバラバラになった楽団員の間を逆走し、パレードの主役の新聞王の車を止め、ボンネットに上がり、そこからジャンプして車内に飛び込む(4枚目の写真、矢印は新聞王)。ピチェは、新聞王に「なぜ、空から紙が降ってるの?」と訊く。「わしのためさ。百万長者だから」。「ボクは、ピチェ・ベル。バイバイ」。「何だと? こいつ! この悪ガキ!」。ここまでが、オープニング・クレジットの入る部分。かなり長い。
  
  
  
  

ピチェはオープンマーケットに逃げ込む。追って来た警官の目を逃れるため、ピチェは逆立ちする。すると、目の前に同年代の少年が立つ。見ると、裸足のままだ(1枚目の写真、矢印は裸足)。元に戻ったピチェは、「靴、持ってないの?」と訊く(2枚目の写真)。映画は次の場面に移るが、後で、ピチェが、この子に自分の靴をあげたことが分かる。悪戯好きでも、心の優しいのがピチェのいいところだ。
  
  

一方、ロッテルダムにある もう1つの新聞社では、アメリカで修業していたポール・フェイリンハが、父親の急死で帰国し、社長になったばかり。編集長との会話。ポール:「今日の夕刊は、どうなってる?」。編集長:「無難な一面記事があって、毎度の国際ニュースに、スポーツと犯罪、最後は『百万長者のパレードを、邪魔した子供』、写真付きです」。「見せて」(1枚目の写真)。この青年社長は、思い切った提言をする。「これを、第一面に使おう」。「ご冗談でしょ?」。「いいや。この子の名前は?」。「ピチェ・ベルです」。そして、輪転機が廻り、刷り上った紙面の第一面は、大見出しで、「ピチェ・ベル、新聞百万長者のパレードを混乱させる」。因みに、新聞の名称は「HET LAATSTE NIEUWS(最新ニュース)」、その下の白抜きには「わが街の夕刊紙」と書いてある(2枚目の写真)。
  
  

ピチェの家では、靴下履きで帰宅した息子に、母が、「何で、靴を あげたりなんかしたの?」と咎めている(1枚目の写真)。「あげるなら、要らない物になさい」。ピチェは、さっそくそれを実行する。店の外に出ると、「フォークにスプーン! ご自由に!」と叫ぶと、あっと間に人だかりができて奪い合いになる。それに気付いた母が店から飛んでくる(2枚目の写真、黄色の矢印はカトラリー入りの箱、赤の矢印は母)。「何するのよ!」。「フォークとスプーンなんか、山ほどあるじゃない!」。「後で、たっぷり お説教よ。今は、顔も見たくないから手伝ってらっしゃい」と父の所に行かされる。陽気な父は大笑いしただけ。
  
  

そこに、オーゼビエスが新聞を持って入ってくる。「お前さんの息子が、新聞に出とる。第一面だぞ! 何か、言い分は?」。父は、「ご時勢さ。楽しいニュースを 取り上げたんだ! 暗いのじゃなく」と答える(1枚目の写真)。「町中が辟易しとる。此奴は、どうなることやら。躾け方を考え直したらどうだ? ヨゼフは、悪い事などせんし、警官にも追われんし、第一面なんかにも載らん」。「そりゃそうだ。退屈なぼんくらだからな!」。そこに、ヨゼフが入ってくる。オーゼビエスは、「壊れた眼鏡をどうしてくれる? 大枚 払ったんだぞ」と要求。ヨゼフは脇で威張った顔をしてみせる。父:「弁償するとも。めくらの鶏じゃ歩けないからな」。そえを聞いたピチェは、鶏の真似をする。父がお金を渡しているところに、姉のマルタが帰って来る。そして、ピチェを睨みながら、カウンターに壊れた数珠台をドンと置き、「数珠台に何したの?」と詰問する(2枚目の写真、矢印は数珠台)。ピチェは、ポケットから木の球を取り出すと、「ビー玉遊び」と言う(3枚目の写真)〔伏線になっている〕。父は笑い出し、姉は「笑い事じゃないわ」と咎める。「笑いがあってこそ人生だ」。「こんなこと続けてると、私 クビになっちゃう」。ヨゼフは「そんなことは許されん。ちゃんと聞いてるのか?」と、ピチェを叱る〔姉に思慕して教師になったので、辞められたら困る〕。ピチェは、すかさず、「あんたがボクの先生でも、言うことなんか聞くもんか」と言って店から出て行く。その後、マルタはヨゼフが眼鏡をはめていることに気付く。「目が悪いの?」。「いいや、知的に見えるだろ。ただのガラスさ」。
  
  
  

姉は、授業をしながら、ピチェがまだ現れないので、時計を見ている。その時、教室に石が投げ込まれる。姉が窓の所に行くと、下からピチェが「マルタ、ドアを開けてよ!」と声をかける〔学校の玄関は、遅刻者が入れないよう施錠されている〕。姉が玄関を開けると、ピチェは開口一番、「今晩は、お姉さん先生〔Goedenavond juffrouw zus〕」と変な挨拶。「こんなに遅刻して!」。「ボクね…」。「やめなさい。ここは、家じゃないのよ!」。ピチェも負けていない。「ああ。でも、姉さんのでもないよ」(1枚目の写真)。それでも、「お入り!」と、中に入れてもらえる。しかし、廊下では、声を聞いて出てきたヨゼフにネチネチと絡まれる。「やっと来たな、ピチェ・ベル! 昨日はパチンコ、今日は遅刻だ」(2枚目の写真)「校長室に行くんだな」。姉は、「だめよ、校長室なんて」と庇う。「口のきき方も気に入らん」。「何も言ってない」(3枚目の写真)。「いちいち 口答えするな! 帰れ!」。姉:「今、登校したところよ」。「罰だ。すぐに帰れ!」。ピチェは、「あんたの生徒じゃない」と怒り、姉は、騒ぎ声のする教室を見て、「そうよ。自分のクラスに専念したら?」と注意する。
  
  
  

授業中、ピチェが最初にした悪戯は、前の席に座っている双子の女の子のお下げ髪の先端を結んだこと(1枚目の写真、矢印は結び目)。その間にも、授業は進んでいる。「オランダは球根で有名です。チューリップ、クロッカス、ヒヤシンス、スイセン。ハーレムの郊外には球根畑が広がっていて、球根は世界中に売られて行きます」。姉は、ピチェが何も聴いていないことに気付き、「前に出て来て、私が言ったことをくり返しなさい。ハーレムと球根畑の話ですよ」と命じる。教壇の地図の前に立ったピチェは、しどろもどろに話し始める。「ええと、花畑が… 畑が球根で…」(2枚目の写真)。後は、すらすらと、「球根はオランダ産の花で、郊外はハーレムだよ」。めちゃめちゃな内容に生徒たちが笑う。姉が、「喜劇役者なのね」と言うと、すかさず、「姉さんには負けるよ」と突っ込み、生徒たちがまた笑う。姉は、さっきから しゃっくりが止まらない。そこで、「マルタ、水、持って来ようか?」と訊く。「放っといて。これは、唯の…」。ピチェは教室の後ろにある洗面台に行き、棚の上からコップを取る。「席に戻って。しゃっくりを止めるから。驚かせて止めようなんて…」と言いかけるが、姉の危惧が実行に移される。ピチェは、水道をひねると 蛇口を指で押えて水を噴出させ、生徒たちに掛ける(3枚目の写真)。生徒たちは逃げるが、おさげを結ばれた双子は動けない。その混乱状態の最中にヨゼフが新入生を連れて入ってくる。あまりの混乱振りに、ヨゼフは、「校長先生の指示で新入生を連れてきたんだぞ!」と怒鳴るが、誰も聞こうとはしない。ピチェは、最後列の机の上に立って棒を振り回し始める(先端に輪が付いている)。すると、後ろの棚に置いてあったインク瓶が引っかかってしまい、真っ直ぐヨゼフに飛んで行き、顔にインクがかかる。激怒したヨゼフは、机の上のピチェにつかみかかると、顔を引き寄せ、「お前には、もう うんざりだ!!」と怒鳴る(4枚目の写真)。唾液過多症なのか、ツバがいっぱいピチェにかかる。「傘がいるよ〔Ik heb een paraplu nodig〕〔どんな場合でも、減らず口は止まらない〕。ヨゼフはピチェを引っつかむと、学校の玄関まで運んでいって、外に放り出す。様々な要素が濃密に詰まったとても面白いシーンだ。
  
  
  
  

ピチェを心配して追って来た姉は、「真っ直ぐ家に帰って、誘惑には目をつむってるのよ」と命じるが(1枚目の写真)、話をよく聞いていなかったピチェは、「目をつむって」「真っ直ぐ」と言われたと思い、文字通り目を閉じ、バランスのため両腕を前に出し、真っ直ぐに歩き出す。途中に立っていた街路灯にぶつかってしまうが(2枚目の写真)、命令をそのまま継続、最後は運河に真っ直ぐ歩いて行ってドボン(3枚目の写真)。
  
  
  

姉は、2時間ほどして、家に電話をかける。父:「ヨゼフが、ピチェを家に帰らせた?」。姉:「ええ、2時間くらい前」。「運河に落ちてなきゃ いいんだが」。その話は、巡り巡ってフェイリンハ社長の元にも届く。「ピチェ・ベルが行方不明だとか… 最後に見られたのは河岸なので溺れたのかも。記者を送りますか?」。「いや、私が行く」。作業員が、長い引っ掛け棒を使って底を浚っていると、ピチェの被っていた帽子が引っかかる。父は、「あの子の帽子です」と確認する。潜水夫が出動する。フェイリンハは、「『最新ニュース』 の記者です。あなたが父親ですか?」と話しかける(1枚目の写真、矢印は帽子)。一方、学校では、ヨゼフが、「大丈夫、『憎まれっ子、世にはばかるさ〔Onkruid vergaat niet〕』」と言って、慰めて(?)いる(2枚目の写真)。「ピチェは そんな子じゃないわ。あの子は、ちょうど…」。「イラクサ〔brandnetel〕?」。「まさか、バラ〔roos〕よ」。「どちらにも、トゲ〔prikken〕があるね」。
  
  

その頃、ピチェは、颯爽とした船に救助されていた。ピチェは、そこでも、ふざけて人気者になる(1枚目の写真)。「君を釣り上げたのは、大正解だ!」と水夫たちは大喜び。その後は、映画『タイタニック』(1997年)の真似。もっとも、映画の舞台は1930年代なので、1997年の映画の真似をピチェがしたわけではない。2002年の映画が1997年の映画をパクっただけ。それでも、結構決まっている(2枚目の写真)。背景にオランダの街並みがあるからだろうか。ピチェが父に抱きついた姿をフェイリンハがバッチリ写真に収め、その日の夕刊の一面を飾る(3枚目の写真)。見出しは、「ピチェ・ベル、無事発見」。最初にパレードをしていた新聞王は、この記事を見て、「何だ、このバカげた紙面は、間抜けなガキを一面で取り上げおって。誰が、読みたがるというんだ」と批判する。
  
  
  

ここから、新たな登場人物が現れる。父の伯母のカト、巨大な鼻の持ち主だ。父と一緒に迎えに行きながら、ピチェは、「パパ、カト伯母さん、どんな人?」と尋ねる(1枚目の写真)。「鉄面皮な女性だ〔Als je een ouwe tang ziet, is zij het〕〔この中の “ouwe tang” は「鬼ババ」という意味。しかし、“tang” だけでは「ペンチ」のような金具の意味になる。ピチェは “ouwe tang” という言い回しを知らず、“tang” だけ抜き出して誤解するが、「鬼ババ」では誤解の感じが出ないので、「鉄」の入った言葉を捜し「鉄面皮」に辿り着いた。だから、誤訳ではなく意訳〕。「お土産ある?」。「まさか。1セントでもくれたら、大ニュースだ」。伯母は、路面電車の前で待っていた。電車のドアには荷物が山積みになっている。親子2人がかりで荷物を下ろす(2枚目の写真)。「ひどい旅だった。3度も乗り換えて4時間もかかったわ」〔伯母の住んでいるデルフトは、ロッテムダムから10キロちょっとしか離れていない〕。「そりゃ、汽車にしないからですよ」。「お金が かかるわ」。そして、ピチェを見て、「あんた誰?」と訊く。「小さいピチェ」。「あんたが ピチェなの。初めて見るわ」。「ボクも初めてだよ」。「キスして」。他の人の2倍ある鼻と、その先端の大きなイボを見て、ピチェは嫌々キスする(3枚目の写真、矢印はイボ)。「医者に行った方がいいんじゃない?」。「まあ、なぜなの?」。「鼻に、すごいイボがある」。「何て生意気な子なの?」。父:「事実を話せと教えてますから。タクシーを呼びます?」。「いいえ、歩くわ。その方がいいでしょ」〔大量の荷物はピチェ親子に持たせる〕。父は、小声で「居座られると困るな〔Ik hoop dat ze gauw ophoepelt〕」と言う〔この部分の正しい訳は、「すぐいなくなるといいな」だが、後で出てくる会話との関係で、意訳した〕
  
  
  

家に着いた伯母は、1つ目の鞄を靴直しのカウンターの上で逆さまにする。中には履き古した靴が一杯入っていた。「タダで直してくれるわね? お金ないから」。そう言うと、履いている靴まで脱いでカウンターに乗せる(1枚目の写真)。次に、伯母は母のミシン机の前に行くと、2つ目の鞄を逆さまにする(2枚目の写真)。「着る物がなくなったから、来たのよ」。そして、伯母は、「少し、寝たいし…」と言って2階に上がっていく。ピチェは、「伯母さん… で できてるの?」と訊く。「私が? 『』? なぜ、そう思うの?」。「パパが、伯母さんは、『鉄めんぴ』な女性だって」(3枚目の写真)。「パパが、『鉄面皮』って、言ったの?」。「だから、伯母さんは、重いんでしょ?」。「何で、『重い』と思うの?」。「パパが、『イス 割られる』 と困る、って言ってた」。「あんた、平気で、何でも話すのね?」。「礼儀正しけりゃ、何でも言えるもん」。ピチェは、さらに「お土産ないの? ビー玉の大きな袋がいいな」と言う。「自分から請求しても、もらえないわよ」。「言わなかったら、絶対もらえないよ」。
  
  
  

伯母がピチェのベッドに横になると、ピチェは母の所に降りてくる。そこに姉が新しいドレスを持って入ってくる。そして、「スカートのひだを、見てちょうだい」と自慢する。「とても素敵よ、マルタ」。しばらくして、ピチェは自分の部屋のドアをそっと開けて中を覗き、伯母が眠っていることを確かめる(1枚目の写真)。そして、ベッドに近づくと、輪にした糸を大きなイボにかける(2枚目の写真、矢印は輪の中に入ったイボ)。そして、切断しようと一気に糸を引く。しかし、イボはとれず、糸が締まっただけ。伯母は痛さで目が覚める。「何てことするの?!」。鏡を見て、「この糸、一体 何なの? こんなことするなんて! 何て悪い子なの!」。「ボク、悪い子じゃない」。「勝手なこと ばかり! あっち行って!」。「でも、伯母さん、それ取り除かないと」。「伯母さんなんて呼ばないの! おやめ! お前のお父さんの伯母なのよ」。「伯母さんが分かってるなら、それでいいじゃない」(3枚目の写真)。
  
  
  

最初の頃、ピチェが靴をあげた少年(スプルート)が、オープンマーケットの台の下を這いずりまわって色々なものを盗んでいる(1枚目の写真)。橋のたもとからそこに降りて来たピチェは、粗末な乳母車を押したスプルートを見て声をかける。「赤ちゃんの世話かい?」。スプルートは、答えに窮する。「男の子、女の子?」。「男の子。寝てるけど」。「見ていい?」。ピチェは、スプルートが「ダメ」と言う前に覆いを取ってしまう。中に入っていたのは大きなパンとジャカイモとトマトとリンゴ。「バレちゃった」(2枚目の写真、矢印はめくられた布)。ピチェは責めるのではなく、「頭いい! 安全に運べるね」と褒める。
  
  

ピチェは、そのままスプルートに同行する。スプルートが入って行ったのは狭くて汚い路地。ドアの外では、赤ん坊を抱いた母親が、「やっと、帰ったのね」と言い、布をめくると当然のようにパンを取り出す。部屋の中には2人の小さな子供もいる。母親は、パンの端を切りながら、「その子、誰?」とスプルートに訊く。「ピチェ・ベルさ」。「ああ、新聞で有名な子ね」と言いながら、切り取ったパンの半分を女の子に渡す(1枚目の写真、矢印はパンの半分、母親の左手にも残りの半分が握られている→後で、赤ん坊に渡す)。母親は、「スプルートが、誰かを連れてくるなんて」と言いながら、次に切った半切れをスプルートに渡す。スプルートはそれを、そのままピチェに渡す(2枚目の写真、矢印はパン)。それを見た母親は、「ほんとに、お友達なのね」とスプルートを褒める。スプルートは、靴をもらったり、新入生としてクラスに連れられて行った際のピチェの奮闘ぶりを見て以来、ピチェの崇拝者になっていた〔彼は、トイレの拭き紙用に盗んできた新聞から、「お尻を拭くと畏れ多い」ので、ピチェの記事を切り取って壁にっている〕。ピチェがパンを食べていると、そこに父親(ヤン)が帰ってくる。ヤンは、「せっかく食い物を手に入れたんだ。他人にやるな!」と母親に怒鳴ると、ピチェを見て、「ここで、何してる? さっさと出てけ、この小僧!」と言い、服をつかんで、雨が滝のように降り始めた路地に放り出す(3枚目の写真)。冷酷、かつ、粗暴な男だ。
  
  
  

翌日、学校で。ピチェは、目立たぬよう隅にいるスプルートの前に来ると、顔の痣を見て、「どうしたんだい? ケンカかい? 誰と?」と訊く。返事がない。「誰がやったか言えよ。仕返ししてやる」。「ダメだよ」。「なんで? 殴られっ放しで、いいのか? なあ、誰なんだ?」。「父ちゃんさ。頭にくると、ボクをぶつんだ」。「それって、時たま?」。「いつもさ! ウチには、全然 お金がないし、父ちゃんは無職だ」。それを聞いたピチェは、自分のランチをスプルートに渡す。「こんなこと、いけないよ」(1枚目の写真、矢印はサンドイッチ)。「要らないから あげるんだ。僕たち、友達だろ?」。そしてさらに、「大切なことが2つある。パパが言うにはね、1つは、物を分かち合うこと」。ここで、始業の鈴が鳴る。「行こう」。「で、2つ目は?」。「お互いを信頼することさ」(2枚目の写真)。ピチェは、「持ちたい友達ナンバー・ワン」と言える。
  
  

学校の帰り、ピチェは広場で踊ってチップをもらっている2人組〔帽子の中は ほとんど空〕を見て(1枚目の写真)、「ちょっと、待っててね」と言うと家に走って帰る。そして、自分の部屋に行くと、眠っている伯母の禿げた頭を見て、ベッドの上の棚に置いてあるカツラに気付く。そして、もう一つ気付いたのが、コップの中に入れてあった総入れ歯。次のシーン。広場では、ピチェが、カツラを被り、姉の新しいドレスを着、右手に持った総入れ歯をカスタネットにようにカチカチさせて踊っている。周りは黒山のような人だかり(2枚目の写真、黄色の矢印はカツラと総入れ歯、赤の矢印は姉のドレス)。帽子の中にはどんどんお金が入れられる。そこに、頭にニット帽を被った伯母、姉、父の3人が駆けつける。伯母は、「悪ふざけは、もうたくさん! 年寄りを笑い者にするなんて!」と言うと、カツラをむしり取る(3枚目の写真、左の矢印はカツラ、中央の矢印は総入れ歯)。「この恥知らず! 顔も見たくない!」。総入れ歯も奪い返す。それを、フェイリンハが写真に撮る。姉は、「写真なんか撮らないで! 入れ歯もない人を!」と非難し、ピチェには、「これ、私の新しいドレスじゃない! こんなに しちゃって!」と怒る。「伯母さんが やったんだ!」〔伯母は、ピチェをつかんで揺すったが、ドレスを傷めたがどうかは不明〕。父は、「こら! ごまかすな!」と言うと、ピチェの後頭部を叩く。伯母は、「市電まで連れていって。早く帰りたい」と言いながら、姉と去って行く。
  
  
  

その夜、ピチェは父に、「一度も叩いたことなかったのに…」と不満をぶつける。父は、その日の夕刊を見せる。一面は、「ダンサー、ピチェ・ベル/都心はてんやわんや」の記事で埋まっている(1枚目の写真)。「こんなじゃ、冗談言っても、すぐ新聞にのっちゃう」。「街中が喜ぶさ」。「悪げがあったんじゃない。スプルートのため、お金が欲しかった」。「スプルートって、誰?」。「新入生だよ」。「彼に、頼まれたのか?」。「まさか、違うよ。彼がパパにぶたれないようするため。さっきみたいにさ」(2枚目の写真)。
  
  

レストランで姉とヨゼフが一緒のテーブルについている。ヨゼフをじっとドレスを見ているので、姉は「何、見てるの?」と訊く。「ドレスに穴が開いてる」。「ああ、これね。新しいドレスなの。気に入った?」。「新しいドレスには、穴なんてない。それに、襟に変なシワがある」(1枚目の写真、矢印はシワ)「それ、バーゲン品なんだろ?」〔嫌な性格〕。「これは、事故のせい」。「そうだろうとも」。「ピチェが仮装に使って、めちゃめちゃに…」。自分の失礼な勘違いは棚に置いて、にっくきピチェを攻撃する。「いつも そうだ! 君は寛容すぎる。誰かが、懲らしめてやらないと」。姉は、あくまで優しい。「そうね。でも、伯母さんから解放してくれて感謝してる」。そして、「母が直したの」と付け加える。ヨゼフは、「僕の方が上手だ」と気持ち悪いことを自慢する〔現在なら男女同権でおかしくはないが、1930年代では異常〕。「あなたが?」。「もちろん。男性が裁縫するなんて信じないだろ? 靴下も自分で直してる。君のお母さんのは手抜き仕事だ」〔実に嫌な性格〕。姉は、その言葉にもムッとせず、「踊らない?」とにこやかに訊く。形勢は逆転。踊れないヨゼフは、「オレンジ・スカッシュが まだ残ってる」と言って誤魔化す(2枚目の写真)。
  
  

翌日、雪の日、ピチェが遅れて学校に行くと、廊下で、ヨゼフに名前を呼ばれる。振り返って、「なんだ、ヨゼフか。びっくりした」と言うと、ヨゼフは「フェールマン先生と呼ばんか!」と叱り、襟を捉まえて引きずって行く(1枚目の写真)。「行かせてよ。姉さんが待ってる」。「形勢逆転だな。今度は、お前が待つ番だ」。そう言うと、不用品置き場のような場所に無理矢理入れる。そして、意地悪げに「そこで、どのくらい待てるかな?」と言って、ドアを閉め鍵をかける。あまりに寒いので、ピチェは、置いてあった石炭ストーブにマッチで火を点ける。しかし、それは、その部屋用のではなくて置いてあっただけのため、いきなり白い煙が噴き出してピチェをびっくりさせる(2枚目の写真)。煙は窓から溢れ出し、生徒から指摘された姉が火事かと思って部屋の前に駆けつける。中からは、「助けて、早く!」という声が聞こえる。しかし、ドアは開かない。出てきたヨゼフは、「おかしいな… 鍵が掛ってる?」と平気で嘘をつく。「マルタ、出れないよ!」。「ピチェ! ピチェが中にいる!」。慌てた姉が助けを呼びに行った後で、ピチェが「ヨゼフが、鍵を持ってる!」と叫ぶが、姉には聞こえない。ヨゼフは、「ざま 見ろ」とつぶやいて去って行く。次のシーンでは、生徒たちが外に出て、警官に連れられたススだらけのピチェがその前を歩いている(3枚目の写真)。その横では、ヨゼフが取材に来たフェイリンハに対し、「私に、仕返ししようと したんです! あの子は、私に個人的な…」と答えている(4枚目の写真)。deleted sceneを見ると、ピチェは この後で留置場に入れられる〔夕刊を読んだ父が、暗くなってから迎えに行く〕
  
  
  
  

その日の夕刊の一面は、「ピチェ・ベル、仕返しする/学校全焼寸前」 というひどいものだった(1枚目の写真)。その先、毎日の一面の記事が紹介される。「ピチェ・ベル、非常ブレーキを引く/鉄道が何時間も混乱」「ピチェ・ベル、木の上の猫を救う/大の動物愛好家」。ここで、編集長が、フェイリンハ社長に、「くずネタ作戦、大成功ですね」という一コマが挿入され、さらに記事は続く。「ピチェ・ベル、馬を逃がす/市場は大騒動」「ピチェ・ベル、竹馬で街を歩く/道化師、出現」「ピチェ・ベル、鮫の真似/背びれで浜辺がパニック」〔くずネタはいいのだが、①非常ブレーキを引くためにはピチェが汽車に乗っていなくてはならないが、そんなことはあり得ない、②冬なのに海岸に行くハズがないなど、ずさん過ぎる〕。一方、新聞王のオフィスでは、社長が、「売上げが落ちとる。あの くず新聞が部数を伸ばしとるというのに!」と、重役会で怒りを爆発させている(2枚目の写真)。重役の一人が、「我々も、あの少年を載せたら? ご存じでしょう、一面に載ってる子ですよ」と提案する。社長は、「断固、拒否する。一言も載せんぞ、ピチェ何とかなんか…」と発言し、重役全員が「ピチェ・ベルですよ」と言う。彼ら全員も「くず新聞」を読んでいることが分かる。さらに怒った社長は、「これから、一面は『不況』でいく」と宣言する。その後に並ぶ紙面は、「多くの工場、閉鎖される」「失業者、15万人を超える」「20万人が、デモ行進」「失業者、25万人に」。これでは、ますます販売部数が減少したかも。
  
  

父が、請求書を見ながら、鼻歌まじりに「♪誰が払ってくれるやら」とブツブツ言っている。それを耳にはさんだピチェが、「何を払うの?」と尋ねる。父は、それに直接答えず、「スリーパー夫人の家、知ってるか?」と訊く。「ヴァート通りの、やぶにらみ?」。ピチェは表情を真似てみせる(1枚目の写真)。「その人だ。修理代を、半年も払ってくれない」。「半年も? 何て意地悪なの!」。「ああ、だが、彼女一人じゃない。皆、お金がないんだ。手間賃を払ってくれなきゃ、食べていけない」。それを聞いたピチェは、「スリーパーさんに、もらってくるよ」と言って出かける。同行したのは、スプルート。「どうやって、やるの?」。ピチェは、「初めは、ていねいに」と答える。「きっと、1セントも もらえないよ」。「そこを、何とかするんだろ」。そう言うと、ドアベルを鳴らす。2階の窓から夫人が姿を見せ、「何の用?」と訊く。「スリーパーさん。よかった、家にいて。これ、請求書ですよ。父さん、靴屋のベルからの」(2枚目の写真)。返事は、「来週払うって、パパに話しといて」。これは脈がないと思ったピチェは、「半年も、払ってないでしょ」と訴える。「嘘おっしゃい! さあ、行って!」。「父さんは、ずっと待ってました。これ以上、待てません」。「とっとと、お行き!」。1回目は完敗だ。ピチェは、「第2ラウンドだ」と言うと、「長く押せば効果があるかも」とベルを鳴らし続ける。夫人はバケツに水を汲んでくると、窓からピチェめがけて掛ける。ピチェは素早く逃げたので、水は、偶然通りかかったフェイリンハにまともに掛かる。「おい、何する! 通行人に水かけて!」。ピチェは、「相手は、ボクたちなの。彼女、半年も未払いなんだ。請求したら水をかけてきて、あんたに当たったんだ」と教える。そして、窓を見上げて、「スリーパーさん降りて来いよ。やぶにらみが直るまで、殴ってやる!」と声を張り上げる。フェイリンハは、「そんなことする必要はない。見てなさい」と止め、「スリーパーさん、もし、すぐに降りてきて支払いと謝罪をしないなら、カメラを壊したと新聞に書くからね」と声をかける。そして、窓辺に出てきた夫人の顔をカメラで撮る(3枚目の写真)〔フラッシュに閃光電球が使われているが、ゼネラル・エレクトリックの製造開始は1930年→後出のもう1つの証拠と合わせ、映画の舞台を1930年代と想定した〕。この脅しは効果があり、夫人は直ちに修理代を払ってくれた。
  
  
  

ピチェのクラスにヨゼフが来て「文法」を教えている。「Ik ga naar school(学校に行きます)。時制は何だ〔Welke tijd is dat〕?」〔“Welke tijd is dat” は「何時だ?」という意味にも受け取れる〕。ピチェの親友が、「9時半です、先生」と答え、生徒たちは笑い、ヨゼフはチョークを折る。次の女生徒は、正しく、「現在形です、先生」と答える。「これはどうだ? Ik ging naar school(学校に行きました)」。ピチェのもう一人の友達。「えーと、過去形?」。「これはどうだ、Ik ben naar school gegaan(学校に行ってきました)」。その時、ヨゼフはよそ見をしているピチェに気付く。そして、「ピチェ!」と大声で呼び、「先生は、何て言った?」と訊く。「どこで?」。「今、ここでに決まっとる! 耳が ついてるのか?」。ピチェは耳を触ってみる(1枚目の写真)。「私は、何て言った?」。「『耳が ついてるのか?』って言ったよ」〔ある意味では、正しい答え〕。怒ったヨゼフは、つかつかと歩み寄ると、ピチェの耳をつかみ、「お前は、つんぼか?!」と大声で怒鳴る。「耳がボーンとしちゃった」。「私は、何て言った?」。「分かんない」。「お前は机で寝てたからな」〔寝てなどいない〕。「Ik ben naar school gegaan(学校に行ってきました)、時制は何だ?」〔同じく、「どんな時間だ?」という意味にも受け取れる〕(2枚目の写真)。ピチェは、自分の感じた通りに、「無駄な時間〔Verprutste tijd〕?」と恐る恐る答える(3枚目の写真)。間違った答えだが、ある意味では正解になっていて、実に傑作だ。生徒たちは笑い、完全に怒ったヨゼフは、「学校に居残り、書き取り100行」と申し渡す。
  
  
  

ピチェは 新聞の売子のアルバイトをしようと『最新ニュース』に行ってみる。1人遅れた売子がいて、担当者が、「また遅刻か? いつも遅刻する奴は、信頼できん」と怒っている。その時、ピチェが、「ボクがやるよ」と手を上げる(1枚目の写真)。担当者は小さすぎるから無茶だと言うが、たまたまフロアに降りて来たフェイリンハが、「仕事をやれよ。お金が要るんだ」と声をかける。ピチェは、「びしょぬれ男だ〔De waterman〕」とひとり言〔“waterman” というと如何にも英語だが、オランダ語の第一選択肢は水瓶座。それでは変なので、英語的に訳した〕。仕事をもらったピチェは、新聞販売もすごく上手だ(2枚目の写真)。1ヶ月後(?)、給与をもらう売子が長い列を作っている。ひときわ小さなピチェも給料袋をもらう(3枚目の写真、矢印)。家に帰ったピチェは、袋ごと父に渡す。
  
  
  

街にサーカスがやって来る。運河で釣りをしていたピチェとその仲間は、何もかも放り出だして行列を見に行く(1枚目の写真、右端にいるのは象)。スプルートが、「サーカスなんて、誰が行くんだろう?」と思わず口に出すと、ピチェが、「ボクたちさ!」と嬉しそうに言う。「でも、お金なんかないよ」。隣にいた仲間:「にんじん持ってる」。ピチェ:「ボクは、アイディア」(2枚目の写真)。ピチェたちはサーカスの設営を一日がかりで手伝い(3枚目の写真)、入場券を1人2枚ずつもらう。家に戻ったスプルートは、酒を飲んでいる父親に、「サーカスの切符2枚。ボクとパパの」と見せるが、このゴロツキは「闇市で、高く売れるぞ」と言って2枚とも持っていってしまう。
  
  
  

ピチェは父と一緒に観客席で、切符を取られたスプルートはテントの下から潜り込んで、サーカスを見ている。ピチェが気に入ったのは、道化のマジック・ショー。1つ目は、台の上に置いた金の腕時計を大きなハンマーで叩くと(1枚目の写真)、新品が口の中から出てくる(2枚目の写真)、というもの。2つ目は、シルクハットの中に卵や小麦粉などを入れて下からロクソクで炙ると(3枚目の写真)、帽子の中からケーキが出てくる(4枚目の写真)、というもの。これを見たピチェは、あることを思いつく。
  
  
  
  

次のシーンでは、風車の横に、「STAADS ZIRKUS/Pietje Bell」という横断幕が掲げられている〔“Staads” は該当言語なし、“Zirkusは” ドイツ語でサーカス(オランダ語は英語と同じCircus)→なぜ?〕。中に入ると、女の子が掲げたボードには、「穴の開いた靴はベルまでどうぞ」と書かれている。ミニ・レスリングや重量挙げのショーもあるが、呼び物はピチェのマジック・ショー。ピチェが、「上等の金の腕時計です」と言って、内緒で持ち出した姉の大事な時計を見せる(1枚目の写真、矢印)。「これを石の上に置いて、ハンマーで…」(2枚目の写真、黄色の矢印は腕時計、赤の矢印はハンマー)と言うと、本当に時計を叩き壊してしまう。「でも、心配は要りません。魔法で、口から腕時計が出てきます」。そして、「ホーカス、ポーカス、プラータス、パス」と唱える。ピチェはこの言葉が魔法の言葉で、だから、サーカスではうまく行ったと思い込んでいる。だから、「さて、これが腕時計です!」と言って口の中に指を突っ込むが何も出て来ない。ピチェは、めげずに2つ目に挑戦する。「新しい帽子が必要です。お持ちの方は?」。子連れの紳士が、「何も、起こらないだろうね? 新品だ」と言って帽子を渡す。ピチェは、「ケーキを焼きます」と言うと、「卵2個と… 小麦粉 少々… それに、砂糖と… 塩も…」と順番に帽子の中に入れていく。最後にかきまぜて、ロウソクの火にかざす(3枚目の写真)。忠実にサーカスの真似をして、魔法の言葉を唱え、「さあ、ケーキです」と言って帽子をひっくり返すと、当然、材料がそのまま流れ落ちる(4枚目の写真、矢印)。それでもめげずに、「さて、いよいよ、クライマックスです!」と言って、ステッキを振ると、ステッキが当たってロウソクが倒れ、置いてあったロケット花火に点火する。
  
  
  
  

結果は悲惨だった。ロケット花火は製材所の天井に何度も跳ね返り、最後はジュート(黄麻)の網に引っかかって止まる。そこから火が燃え拡がり、観客が逃げ出す騒ぎに(1枚目の写真、矢印は「変な横断幕」)。お金を稼ぐどころか、元手の回収もできず、製材所に与えた損害は賠償のしようがない。スプルートが「家に帰るの?」と尋ねると、ピチェの返事は「まさか。警官が、お待ちかねさ。家出するしかない」。「どこ行くの?」。「アメリカさ。百万長者になる」。「アメリカ? 海の向こうだよ」。「船が いっぱいいるだろ…」(2枚目の写真)。ピチェは、運河の船でアメリカに行く気だ。逆に言えば、その程度の認識しかない。一方、ピチェの父の店には、マジック・ショーで帽子を貸した男性が子供2人と一緒に損害請求に訪れている。父は、「これで、新しい帽子を」と言って、現金入れに残っていた札を全部渡す。「悪いね」。そこに、姉がやってきて、「パパ、腕時計が どこにもないの」と心配そうに言う。それを聞いた男性は、「金の腕時計なら、石の上で粉々ですよ」と教える(3枚目の写真)。姉:「何の話ですか?」。男性の小さな娘:「あれ、最高に笑えたわ」。そこに入って来たオーゼビエスが、「言わせてもらえば、あれは、前代未聞だった! あんたの息子は、製材所に火を点けたんだ。町中が、その話でもちきりさ」と事件をバラす。用の済んだ親子は店を出て行き、代わりに警官が入ってくる。「大変だ。誰か怪我人は?」。「出なかった。だが、究極の悪戯っ子だな! ヨゼフが、逐一見とった。将来は犯罪者だな」。警官が、「本官は、ピチェ・ベルを捜しておる」と割り込む。
  
  
  

ピチェとスプルートは、運河船(橋をくぐれるように背が低く、狭い水路を通れるように細長い)の船首にある荷物室に隠れていた。暗くなって船が動き始める。開口部から覗いたピチェに、スプルートが「摩天楼 見える?」と訊く。こちらも、世界地理に対する認識はピチェと似たり寄ったり。「ううん、2人の男だけ」。この2人、実は泥棒。太ったクロックの方が、ロープを取ろうと開口部から手を入れ、ピチェに触れる。「下に誰かいる。手に触れた! 警官か密告者だ。捕まったら10年はくらうぞ!」(1枚目の写真)。痩せで落ち着いたトゥーンは、怖がるクロックを笑い、「顔を拝んでやろうぜ」と言ってランプで照らし、「見つけたぞ」と2人を引っ張り上げる(2枚目の写真)。
  
  

次のシーンでは、ピチェとスプルートは、古い小屋の中で目隠しをされ柱に縛られている(1枚目の写真)。ピチェ:「もう 最悪」。スプルート:「何も、見えないよ」。「知ってる魔法は1つだけ」。「効かなかったじゃない」。それでも、ピチェは魔法の言葉を唱えると、体をくねらせてロープから脱出する。魔法が効いたというよりは、2人を同じ縄で柱に縛り付けたため、緩みがあっただけ。それでも、前向きなところがピチェらしい。目隠しを取ると、周りの棚には「お宝」が一杯置いてある。スプルート:「きれいなものが、こんなにいっぱい!」。ピチェは、「ここは強盗の巣〔rovershol〕だ。略奪品の隠し場所だ」と的確に判断する。置いてあった中に、壊してしまった姉の金時計にそっくりなものを発見し、手に持ってみる(2枚目の写真、矢印)。「マルタ、違いに気づくかな?」と気をそそられるが、悪戯っ子でも泥棒ではないピチェは、「やめよう」と時計を元に戻す。そして、隣にあったサーカスの切符を見て、「奴ら、サーカスにも行ったんだ」と言って、切符を丸めて投げ捨てる。一方のスプルートは、食料を常時盗んでいたくらいの常習犯なので、置いてあった宝石や貴金属をポケットに布にくるんでポケットに入れる(3枚目の写真、矢印)。そして、ピチェが捨てたキップを拡げてみると、父にあげた切符だと分かる〔左上に、“Voor Papa(パパへ)”と書いてある〕。スプルートは、父が窃盗団の一味だと知って愕然とする。
  
  
  

2人は小屋から忍び出ると、通りがかった車に乗せてもらう。連れて行かれたのはどこかの街(1枚目の写真)。スプルート:「どこだか分かる?」。「ううん、ぜんぜん見たことない場所だ」。しかし、街角の掲示板には新聞の一面がベタベタと張られている。そこには、「ピチェ・ベル、逃走す/煙に巻かれたサーカス」の見出しが躍っている(2枚目の写真)。その時、耳慣れた声が聞こえる。「何なの、ピチェ・ベル! また鼻の前に現れて!」〔「目の前」でなく「鼻の前」というのが、おかしい〕。「デルフトで、何してるの?」〔カト伯母の住んでいる町がここで判明する〕。ピチェは、「迷子になって」と答える。伯母は、前回あれだけピチェに辛い目に遭わされたにもかかわらず、2人を路面電車でロッテルダムまで連れて行く。前夜から何も食べていないピチェは、「何か買っていい? お腹空いて死にそう」と頼むが、「なら、どこかにお行き。また、鼻を齧られたらたまらない」と言われてしまう。その時、警官が、「おい、ピチェ・ベルだな?」とセーターをわしづかみにする(3枚目の写真)。伯母は、「どうするつもり?」と詰問する。「一緒に来てもらう。あんたは?」。「この子の伯母で、家に連れてくのよ」。「あんたが中国の皇帝でも、この子は連行する」。伯母は、「何て強引なの」とブツブツ言いながら一緒について行く。
  
  
  

3人が連れて行かれたのは、ロッテルダム市の警察本部長の部屋。3人が入って行くと、本部長は、「あはあ、『市の恐怖〔De schrik van de stad〕』のお出ましか」と、からかうように言う(1枚目の写真)。そして、ピチェに、「この2人は?」と訊く。「こっちはカト伯母さん、あっちは友達のスプルート」。さっそく伯母が、「私は、デルフトの伯母。正確には父親の伯母ね。他人のことに鼻を突っ込みたくはないんだけど…」。「なら、そうしなさい」。伯母がイスに座ろうとすると、その前に、スプルートがこっそり隠した盗品がお尻にぶつかり、叫び声を上げる。伯母がそれを本部長の机の上に置くと、中には真珠や金の腕輪などが詰まっている。「いったい、これは何だ?」。疑惑はすぐにピチェに向けられる。「君が、盗んだのか?」。ピチェから クロックとトゥーンの話を聞かされた本部長は、スプルートに「ピチェの話は本当か?」と訊く。しかし、スプルートの返事は、「全部、嘘です。農場にだって行ってません」(2枚目の写真)。この卑怯な言葉を聞いたピチェは開いた口が塞がらない(3枚目の写真)。
  
  
  

家に帰ったスプルートの前に父親(ヤン)が立ち塞がる。「一晩中、どこに居やがった?」。そして殴ろうと手を上げる(1枚目の写真、矢印)。スプルートは、「ぶたないで!」と言い、「明日も、警察に行くんだ」と打ち明ける。翌日、ピチェは本部長を「閉じ込められていた小屋」に連れて行く。そして、中に入るが、そこには何一つ残っていなかった(2枚目の写真)。昨夜、ヤンが何があったかを息子から聞き出し、仲間の2人に連絡してすべてを別の場所に移していたのだ。本部長は、ピチェに「誰が嘘付きかはっきりしたな」ときつく言って出て行く。その日の夕刊には「ピチェ・ベルに窃盗の容疑/金や宝石を所持」、翌日の夕刊には「ピチェ・ベル、警察に嘘/窃盗団の話はでっち上げ」の見出しが。売子の担当者からは、「売上げ金は、きっちり調べるぞ。ちょっとでも誤魔化したらクビだからな」と言われる始末。そんな新聞を売るピチェも面白くない。「ピチェ・ベルは、嘘つかない!」と叫びながら売ろうとするが(3枚目の写真)、誰も買わない。ベルの店に修理用の靴を持ってきた男性も、店にピチェが入って来ると、「やあ、大盗賊君。何の用事?」と声をかける。「ボク、泥棒じゃない。ピチェ・ベルだ」。ピチェが靴屋の息子だと知った男性は、カウンターに出した靴を慌てて回収して(4枚目の写真、矢印)、店を出て行く。ピチェが買い物に行った食料品店では、「泥棒を寄こすなと ママに言うんだな」と追い出される。
  
  
  
  

それでも、ピチェの悪戯は健在だ。授業中、生徒にテストをさせ、ヨゼフは教壇でイビキをかいている。ピチェの邪魔をしていた大きなハエがヨゼフの額にとまったのを見たピチェは、教壇まで行くと、置いてあった体罰用の板を取り上げ(1枚目の写真)、ハエを叩き潰す。それで目が覚めたヨゼフは、「もう、我慢ならん! 新聞に書いてあることは正しい! お前は怪物だ!」と怒鳴ると(2枚目の写真、矢印は潰れたハエ→ヨゼフは気付かない)、板を取り上げ、ピチェの手の平が腫れ上がるまで叩き続ける(3枚目の写真、矢印は体罰用の板)。
  
  
  

同じ日、路面電車の軌道を横切る時、作業員が石を落としていく(1枚目の写真、矢印は石)。そこに近づく電車。車内にはヨゼフがいる。そのヨゼフの顔をじっと見ていた少年が、「額に ハエがいるよ」と教える。「何だって?」。「死んでる」。ヨゼフは、指で探ってハエを取ると、「あの クソ、ピチェ・ベルめ!」と恨みが募る。その時、窓の外を見ると、ピチェが歩道を走っている。その直後、電車は石に乗り上げて脱線し、ビルにぶつかって止まる。衝撃音を聞いたピチェも現場に駆けつける。そして、電車を降りて来たヨゼフと目が合う(2枚目の写真、矢印は2人)。ヨゼフは当然、ピチェがやったと記者に告げた。夕刊の一面は、「ピチェ・ベル、路面電車を脱線させる/レールに置かれた石で脱線」。売子の場所に行き、この新聞を見たピチェは、「こんな新聞売らない。嘘だらけだ。ボクは、やってない!」と怒る(3枚目の写真)。担当者が「お前はクビだ」と言うと、ピチェは「こっちから、やめてやる! こんな、くず新聞のために働くもんか」と吐き捨てるように行って去りかけるが、「これを書いたバカは? 言いたいことがある」と言って階段を上がってオフィスに向かう。
  
  
  

そして、フェイリンハを見つけると、「やあ、びしょぬれ男。このバカげた記事書いた『嫌な奴〔geniepige vent〕』は誰?」と訊く。フェイリンハは、「『嫌な奴』? 知らないな」と、とぼける。「嘘つき! ここで働いてるくせに! あんた仲間だから庇うんだろ!」「このバカ新聞とは、おさらばだ!」と叫ぶと、籠に入れてあった切り刻んだ紙片を1階目がけて投げ捨てる(1枚目の写真)。一方、ピチェの父と姉は、警察を訪れていた。目的は、ピチェについての記事を捏造する記者が誰かを突き止めるため。姉は、父が話を聞きに行っている間、外で待っていた。そこに、ネタはないかとフェイリンハがやって来る。姉は、フェイリンハの紳士らしい様子に気を許して、「父を、待ってるんです。父は、弟のピチェ・ベルについて、嘘ばかり書く『嫌な奴』のことを訊きに来たんです」と打ち明ける。姉の美しさに見惚れていたフェイリンハは、「あなたの弟?」と、どっきりする。「ええ。『嫌な奴』って、ポール・フェイリンハ。弟の情報を求めて、警察通いだとか。白を黒と言いくるめるようなこと、許せないわ」。その時、警官がやって来て、「おい、フェイリンハ。女性が捜してたぞ」と声をかける(2枚目の写真)。怒った姉は、「このクズ〔Vuilak〕! 弟は、あんなことしてないわ!」と言うと、手に持っていたコップの水をフェイリンハの顔にかける(3枚目の写真、矢印はコップ)。「弟に構わないで!」。部屋から出てきた父が、「確かな証拠はないそうだ」と姉に言い、姉は「もちろん」と応じる。
  
  
  

その夜、父は、「ピチェ、話がある」と、真面目な顔で話しかける。「いっぱいいろんなことが起きた。1日に、1人の子供には多過ぎるほどな。だから、1つか言わん。先生のハエを叩くな」(1枚目の写真)。「ダメ?」。「ハエは1日しか生きられん」〔ヨゼフよりハエの命の方が大事なところが面白い〕。「1日だけ?」。「だから、殺すのは可哀そうだ。1日しか生きられないと分かっても、ヨゼフの頭を叩きたいか?」。ピチェは、腫れ上がった手の平を見せる。「ヨゼフめ… あいつは お前を 妬んどるからな」。「ボクを?」。「お前は、ひとかどの人物だ。ハエやヨゼフとは違う」〔ヨゼフはハエ並み〕「自由な精神がある。みんなが それを認めてるから、新聞に載るんだ」。「ちっとも、よくないよ」(2枚目の写真)。
  
  

ここから、映画の様相が異なってくる。ここまでは、第1作の『Pietje Bell』(1914年)と第4作(時系列順には2番目)の『Pietje Bell's goocheltoeren(ピチェ・ベルの手品)』(1924年)に準じていたが、ここからは、第7作(時系列順には4番目)の『Pietje Bell is weer aan de gang(ピチェ・ベルの復活)』(1934年)に準じる。ピチェが仲間の1人エンゲルチェとボールを蹴って遊んでいると、ボールが建物の地下室に入ってしまう。そこには何もなかったが、雰囲気が気に入ったピチェは、「ここは 『強盗の巣』だ」と、以前使った言葉をもう一度使う。「ボクらの秘密の隠れ家だ。ここから、新聞と戦うんだ」。「何が できるんだ?」。「まだ、分からないけど、奴らの相手になるのは…」。そして、「名前を考えないと」と、首をひねる(1枚目の写真)。ピチェは、埃で真っ黒になった自分の手を見て、「黒い手〔Zwarte Hand〕だ」と思いつく(2枚目の写真、矢印)。それからしばらくして、街中に、靴墨で手型を押した「黒い手」が溢れ出す(3枚目の写真)。
  
  
  

『最新ニュース』では、フェイリンハが記者全員を集めて、「町中に、『黒い手』が溢れている。背後には誰が? 理由は? 全員が、この事件の担当だ。我々なら、この謎が解ける」と指示している(1枚目の写真)。記者が出て行った後に、ヨゼフがやって来る。フェイリンハ:「ピチェ・ベルの先生、何か用事かね?」。「内々で、話せませんか?」。そして、ヨゼフは、こう申し出る。「ピチェ・ベルについて、いくつか面白い話があります。彼には詳しいですから。ひょっとして情報を買う気はありませんか?」(2枚目の写真)〔最低の教師〕。「我々は正直な新聞社です。少なくとも、そう努力しています。今は、『黒い手』で手一杯でしてね」。こうして、ピチェの作戦は当たり、ヨゼフはすごすごと帰る。
  
  

ピチェが立ち上げた『黒い手』の根城では、ピチェが、「『黒い手』とは何者か?/警察も困惑」という見出しの躍る新聞を手に、「バカな新聞が、何週間も同じことばかり書いてる。みんな、でくのぼうだ〔klungels〕」と言い、仲間たちが笑う(1枚目の写真)。ピチェは、さらに、「ボクらの最大の武器は、不可視性と秘密主義だ」と付け加える(2枚目の写真)。その頃、ピチェの父は店の靴墨がすぐなくなるので首をかしげている。この時の映像に、聖ニコラスと雪が出てくるので、季節は12月末に変わっている。
  
  

ある日、おもちゃの木の剣で戦闘ごっこをしていると、ピチェの剣が当たった壁に大きな穴が開く。「見ろよ、奥に 何かある」(1枚目の写真、矢印は穴)。全員で壁の煉瓦を崩して大きな開口部を作り、中に侵入する。中は迷路状の地下室になっている。ネズミが出てきた時、ピチェが、「ヨゼフの双子の弟だ〔tweelingbroer〕」と言うのがおかしい。終点にあったドアをこじ開けると、中は倉庫になっていた。最初は缶詰や小麦粉の袋だったが、進むにつれ「お宝」が並ぶようになる。それを見たピチェは、「ここは、倉庫じゃない。強盗の巣だ。クロックとトゥーンの農場と よく似てるな」と言う(2枚目の写真)。エンゲルチェが、「作り話じゃ、なかったの?」と訊くと、ピチェは「もし、そう信じてるなら、出てけよ」と怒る。「ごめん。スプルートから…」。「そんな名前、聞きたくない!」。全員で今後の方針を相談する。「もし、全部 盗品なら、警察に電話しないと」という意見に対し、ピチェは、「ダメだ。ボクが、前にやったろ。だけど、信じてくれなかった」と反対する。「じゃあ、放っておくの?」。「ううん、ボクら盗賊だ。奴らに倣って盗むんだ」(3枚目の写真)「泥棒は金持から盗む。ボクらは泥棒から盗む」。「盗んだものを、どうするの?」。「タダで配る〔Weggeven〕」。
  
  
  

かくして、街中に黒い手の印を付けるだけだった「暇なグループ」は、倉庫に大量に置いてあった食料品その他を、貧しい人々に配る「義賊団」へと変身した。1枚目の写真は、倉庫から持ってきた物で、プレゼントの包みを作っている団員たち(ピチェは左端の赤と白の横縞のセーターの少年)。次のシーンでは、貧しい一家が、寂しい鍋を囲んでいるとドアがノックされる(子供が7人もいる)。父親がドアを開けると、そこには『黒い手』の印を押した大きな紙包みが置いてある。父親がそれを持って中に入るのを、ピチェとエンゲルチェが見ている(2枚目の写真、矢印は紙包み)。贈り物作戦が進行してから、エンゲルチェが、「スプルートにも、あげちゃダメかい?」と尋ねる。あれほど裏切られたピチェだったが、「分かった。リストに加えよう」と同意する。しかし、結果は悲惨だった。スプルートの、「何か届いてるよ」の言葉で出てきた父ヤンは、「ウチが貧乏だと? がらくたと一緒に消え失せろ!」と言って、紙包みを蹴散らす(3・4枚目の写真)。
  
  
  
  

一方の新聞社。『黒い手』に関する情報は何もなく、フェイリンハは、「何週間も、答えより疑問ばかり印刷してる! こんな新聞、誰が買う?!」と不満をぶちまける。そこに、ヨゼフが現れる。フェイリンハは「ピチェ・ベルが静かすぎる」と告げた後、「ピチェ・ベルについてネタを探してる」と持ちかける。ヨゼフは、待ってましたとばかりに指を動かしながら、「見返りはあるかね?」と訊く(1枚目の写真)。その日、教室で後片付けをしていた姉のところにヨゼフが入ってくる。そして、ダンスに誘った後で〔以前、踊れなかったので、18週間ダンス教室に通った〕、「そうだ、君に新しい新聞を買ってきた。君の弟の話が出てる」と言って新聞を渡す。そこには、「ピチェ・ベルに殴られた少年、意識不明に/犠牲者は未だ昏睡状態」と書かれていた。新聞を持ち帰った姉は、「この記者は異常よ! 記者を解雇するよう掛け合ってくるわ」と言いながら、父に新聞を渡す。父は、「フェイリンハを解雇なんかしないさ」と諦め顔(2枚目の写真)。ピチェは、「フェイリンハってのが、名前?」と訊く。「そうよ、ポール・フェイリンハ。構うなって頼んだのに。全然 変わってない!」。そして、記事を読み上げる。「少年は、2日前、ホウフ通りで暴行を受け、重傷を負って入院したが、未だに意識不明である。信頼できる筋によれば、加害者はピチェ・ベルである」。
  
  

怒ったピチェは、夕闇迫る雪の街を新聞社に直行する。そして、オフィスに入って行くと、「ポール・フェイリンハを捜してる!」と叫ぶ。「私が、ポール・フェイリンハだ」。それを見たピチェは、「びしょぬれ男か、失望したよ」と蔑むように言い(1枚目の写真)、帰ろうとする。フェイリンハは、それを引き止め、自分の部屋に連れて行く。「なぜ、新聞に嘘を?」。「嘘だって? そうは思わない」。「どうかしてるよ、嘘ばかり書いて。どこから嘘を聞いたか、知りたいんだ」(2枚目の写真)。「情報源がある」。「『じょうほう源』って? 水源みたいなもの?」。「ネタを教えてくれる人さ。信頼できるんだ」。「悪意があったら? 誰なのさ?」。「教えられない。裏切れないんだ」。ピチェは、「あんた、いろいろ書いてるけど、一度でもボクに尋ねた?」と捨て台詞を残し、部屋を出て行く。この言葉は、フェイリンハにグサッと刺さったようだ。だから、「ピチェ、待って!」と呼び戻そうとする。「裏切者とは話さない」。「私は裏切者じゃない。情報源を裏切れないだけだ」。「違うね。真実を裏切ってるんだ〔Je verraadt de waarheid〕。あんたは記者失格だ。『黒い手』の取材だって、あんたには無理だ」。編集長は思わず咳払い。一方、姉は、新聞社の社長宅を訪れる。「私はマルタ・ベル。『最新ニュース』の社長に話があります」。その時、階段を降りて来たフェイリンハが姉に気付いて出てくる。「あなたも、訪問中とは知らなかったわ」。「訪問中じゃない。住んでるんだ」。「あなたが、社長さん?」。「そうだよ。さあ、中へ」。「ダメ、入れないわ」。「でも、私に話があったんだろ?」。「あなたじゃなく、社長さんにね」。「何が、言いたかったの?」。「悪質なポール・フェイリンハの解雇よ」(3枚目の写真)。姉も弟も、言いたいことはきっちり言っている。
  
  
  

倉庫から持ち出した品がなくなってしまう。そこで、ピチェは、何か取って来ようと「強盗の巣」に1人で向かう。しかし、近づいていくとクロックとトゥーンの声が聞こえる。ピチェは、こっそりと近づいて様子を伺う。2人は在庫が減ったのをいぶかり、「誰なんだろう?」。「サツじゃ、ないのか?」と疑っている。「もしかしたら。この前の農場みたいに」。その時、ヤンが姿を見せ、「俺が警告しなかったら、あげられてたぜ」とお仕着せがましく言う。「俺に感謝しろ」。トゥーンも負けていない。「お前じゃなく、息子にな」〔スプルートの情報で、 「お宝」をロッテルダムの地下倉庫に移動できた〕。それを知ったピチェはびっくりすると同時に、スプルートの変心の謎も解ける(1枚目の写真)。そのうち、ヤンは、「見ろ、ダイヤモンドだ」と木箱に入ったたくさんのダイヤモンドを仲間に見せる。そして、「今夜10時にツェッペリン号に持って行く」と話す(2枚目の写真、矢印はダイヤモンドの箱)「明日から、俺たちは大金持ちだ」〔ツェッペリン号は、アメリカの新聞王ウイリアム・ハーストが借り切って世界一周をしていて、ロッテルダムに立ち寄るという設定。ツェッペリンが造られたのは1928年なので、これも、この映画の舞台を1930年代とする根拠になっている〕。その時、スプルートが姿を見せたので、びっくりしたピチェが体を引っ込め、物に触れて音がする。盗賊たちは急に警戒。スプルートが確かめに来る。スプルートはピチェと目が合い、仰天する(3枚目の写真)。ピチェは黙ってろと指を口に当てるが(4枚目の写真)、その時、靴墨で黒くなった手の平が見える(矢印)。それを見たスプルートは、以前、自分の家の前に置かれた紙包みの「黒い手」が、ピチェのものだったと気付く。ピチェは、スプルートが裏切ったにもかかわらず、紙包みをくれた。それに感謝したスプルートは、ヤンから「何か見たか?」と訊かれても、「ううん、何も」と答える。
  
  
  
  

カト伯母さんが、ツェッペリン号を見るためにピチェの家にやって来る。そして、以前ピチェが請求したのを忘れず、ビー玉をお土産に持って来てくれる。父は、ピチェに「フェールマンの店で、靴墨を買ってきてくれ」と頼む〔薬剤店で靴墨なんか売っているのか?〕。ピチェが店に入って行くと、奥から2人の話し声が聞こえる。「厚く剥くな」〔オーゼビエスは足の爪を切り、息子のヨゼフにジャガイモの皮を剥かせている〕。「芽を取り除かないと」。「それにしても、厚い」。「古いじゃがいもだから、柔らかいんだ」。「何個 剥いたんだ?」。「6個」。「実が ほとんど残ってないぞ」。オーゼビエスのケチさ加減と、ヨゼフの不器用さがよく分かる。「今夜、マルタに結婚を申し込むんだ」。「金はあるのか?」。「安く済ませるよ。レモネードだけだ」。「女は 金がかかる。婚約指輪を欲しがるぞ」。「バーゲン品で安く済ませるから」(1枚目の写真、矢印はジャガイモ)。実に嫌な親子だ。そこまで盗み聞きしていたピチェの口が、突然誰かの手でふさがれる。叫ばないための用心だ。それは、フェイリンハだった。「ここで、何してるの?」。「君を捜してた。ここに入るのを見てね。家族が増えるな〔マルタがヨゼフと結婚する〕」。「ヤだよ、そんなの。何とかしないと。助けてよ」。そこに、声を聞きつけたヨゼフが奥から顔を出す。「やあ、ポール。ピチェ・ベルの最新ニュース、知りたくないかね?」(2枚目の写真)「最新ほやほやの情報を、教えてやる」。その時、隠れていたピチェが姿を現し、「あんただったのか!」と抗議する。ヨゼフはおののくが、「何が?」としらばくれる。ピチェはフェイリンハに、「彼が情報源なの?」と訊く(3枚目の写真)。「ああ、悪質な情報源だ」。ピチェは、「あんた、ボクの先生で、隣人で、その上、すぐに…」とまで言って、耐えられずに店を出て行く。フェイリンハは すぐに後を追い、ピチェに、「君に謝りたい。ヨゼフだけを責めるのは不公平だ。私も悪いんだ。君は正しかった。私は真実に目を向けず、売り上げだけを考えていた」と謝る(4枚目の写真)。そして、「病院の少年は回復した。彼は、誰が本当の犯人か言ったんだ」と打ち明ける。「病院? そこに、情報源がいるの?」。「どういう意味だい?」。「ボクの姉さんを、『嫌な奴』から遠ざけときたいんだ」。「何とかなるかも」。
  
  
  
  

ピチェは、ヨゼフが8時に姉と会うと聞いていたので、その前に会うべく外で隠れて待っていた。そして、ヨゼフが店を出てくると、「ヨゼフ、マルタから手紙。今、病院だよ」と、慌てた振りをして手紙を渡す(1枚目の写真)。「脚を骨折したんだ」。さらに、「急がないと。あんたがいないって寂しがってる。あんたに、いて欲しいって」と、嘘の追い討ちをかける。ヨゼフは病院に直行する。中に入り、「マルタ・ベルを捜しています。足を骨折した人です」と看護婦に訊く。フェイリンハに協力を頼まれていた看護婦は、「私が案内します。こちらへ」と大部屋に連れて行き、「4つ目のベッドですよ」と教える。ヨゼフは、テーブルに飾ってあった花を引き抜くと、ギブスで固めた脚が吊られているベッドに行き、「大切なマルタ。痛むかい。ダンスは残念だったね。でも、ここに来られたし、聞きたいことがあるんだ」と話しかける〔患者の顔は見えていない〕。「マルタ、結婚してくれる?」。その言葉に驚いた老婆が振り向く。「あたしとかい?」。ヨゼフは驚いて声も出ない(2枚目の写真、黄色に矢印は花束、赤の矢印は花束の入っていたコップ)。ヨゼフは、「ピチェ・ベルの悪魔め! 捕まえたら、あいつ…」と息巻いて病院から出てくる。ピチェとその仲間は、それを待ち構えていた。そして、路面に馬が落としていったホカホカの糞を全員でヨゼフ目がけて投げる(3枚目の写真、矢印は落ちている馬糞、4人の後ろには馬も見える)。追いかけようとして馬糞の上で滑ったヨゼフを、ピチェは「天罰だ」とあざ笑う。
  
  
  

フェイリンハは、8時までにダンスホールに着く。そして、姉の前に出るが、嫌われていることは承知しているので、「怒った女性ほど美しいものはない。危害を加えない場所に座っても いいかな?」と訊く〔危害→以前、水をかけられた〕。その言葉で、水をかけた激情を恥じて、姉は座ることを許す。「誰か、待っている人でも?」。「ええ。時間ピッタりに来るはずなのに」。「けしからんですな。あなたを辱めるなんて」。「どうして?」。「バラは、『壁の花〔muurbloem〕』になってはいけません」(1枚目の写真)〔英語の“wallflower” が、オランダ語でも全く同じ表現とは面白い(“muur” が壁、“bloem” が花)/“wallflower” と言えば、ローガン・ラーマンの演技が光った『ウォールフラワー』(2012)を思い出す/念のために… 『壁の花』は、「パーティーで片隅にじっとしている独りぼっちの人」 のこと〕。フェイリンハは さらに、「バラは、胸に抱きしめないと」と加速する。「彼は、私をバラだなんて見てない。きっと、イラクサだわ」〔イラクサとバラは、以前にも使われた〕。2人は、席を立って踊っている人々の中に入って行く。その時、糞で汚れたヨゼフが遅れて到着する。「あら、ヨゼフだわ…」。フェイリンハは、「もう遅い」と言って姉にキスをする。ヨゼフは、そこら辺にいたおばさんの手を取ってメチャメチャに踊り始めるが、キスを続ける2人は目も留めない(2枚目の写真、黄色の矢印は姉とフェイリンハ、赤の矢印はヨゼフ)。姉とヨゼフの結婚は、これで完全に阻止された。
  
  

場面は、「強盗の巣」の地下の倉庫へと移る。ヤンが、息子の服の中にダイヤモンドの入った木箱を隠す。「お前が持ってるとは、誰も思うまい」。そして、「これは、失敗した時のため」と言って、拳銃を見せる。ヤンは、スプルートを木の箱の中に入れる(1枚目の写真)。一方、倉庫の外ではピチェと仲間が隠れて様子を窺っている。泥棒3人組は、「お宝」入りの木箱を満載したトラックに、スプルートの入った木箱を載せ終わる。ちょうどその時、トラックの前方の道路で、ピチェの別の仲間2人が自転車に乗ってきてケンカを始め、殴り合って2人とも気絶する〔気絶して道路を塞ぎ、撤去させて注意を逸らせようとする作戦〕。クロックとトゥーンが、2人を動かしている隙に(2枚目の写真)、ピチェは、真後ろからトラックの荷台に上がり、木の箱の1つに潜り込む(3枚目の写真)。トラックはツェッペリン号の下に入って行く(4枚目の写真)〔ピチェ・ベルの仲間4人も後を追う〕
  
  
  
  

レストランで、フェイリンハと姉が食事をしている。フェイリンハは時間を確かめると、内ポケットから封筒を取り出す。「これは、君の弟からの手紙。9時半に開封できる」(1枚目の写真、矢印)。「弟から? 知り合いだとは初耳ね」。封を開けると、中に入っていたのは、『黒い手』の押された紙。一番上には、「今夜10時、ツェッペリン号で黒い手が作戦開始」と書いてある(2枚目の写真)。それを見た姉は、「え! これ、ピチェの字だわ」と驚く。「これって、ピチェが…」。フェイリンハが後を引き継ぐ。「黒い手なんだ!」。これは、フェイリンハにも寝耳に水だった。2人は席を立ち、急いでツェッペリン号に向かう。
  
  

一方、ツェッペリン号の貨物室では、スプルートの父が、息子の入っている箱を開けると、中からピチェが出てきたのでびっくりする。拳銃を向けて「手を上げろ」と命じ、「ここで、何してる?」と詰問する。「ツェッペリン号の中が見たかった」(1枚目の写真、矢印は拳銃)。ピチェのトボケ顔が面白い。ピチェは、すぐに厳しい表情になると、「ダイヤモンドのこと知ってるぞ。あんたは泥棒だ」と断じる。「くそ! スプルートめ裏切ったな!」。「彼は無関係だ。息子を信頼しないのか、恥知らず」。「他に何を知ってる?」。ピチェは黒い手を見せる。「俺たちのブツを盗んだ奴らだな!」。こんな時でもピチェは、「俺たちの?」と、相手のミスを突く〔ヤンの物ではなく 盗品〕。「警告しておく。本気だ。仲間の名前を言え! 全部で何人だ?」。「ボクは裏切者じゃない」。撃鉄が上がる。その時、スプルートが、「パパ、待って! もし、ピチェを傷つけたら、このダイヤ捨てちゃうから」と箱を手に掲げる(2枚目の写真、矢印はダイヤモンドの箱)。ところが、その箱に入っていたのは、ガラス片だった。ヤンは、自分の胸を叩いて、「本物は、ここにある。ガラスを届けて、金はバッチリもらうのさ。もし、お前が言う通りにしないと、お前の友達は死ぬ」と脅す。同じ頃、クロックとトゥーンはトラックの運転席にいた。「奴のやり方は汚すぎる。金もダイヤモンドもだぜ」と、ヤンのやり方にトゥーンは批判的だ。この2人は、ピチェの仲間によって、簡単に昏倒させられる。
  
  

ツェッペリン号には、借り主のアメリカの新聞王に招待されたオランダの新聞王スタークがやって来る(1枚目の写真、矢印はスターク、手前中央にはフェイリンハと姉が映っている)。画面は変わり、ツェッペリン号の客室内。スプルートの父が、アテンダントに、「スタークさんに贈り物を。お気に入りの葉巻の箱だ」と告げている。「分かりました。でも、船室では禁煙ですよ」。スプルートが、葉巻の箱を持ってスタークに近づいて行く。予め打ち合わせができていたらしく、スタークは、「いやぁ、坊や。わしに贈り物かな?」とスプルートに声をかける。「お父さんが、この葉巻を。残りは、船荷に」。スタークが箱を取ろうとしたので、スプルートは「現金、前払いで」と制止し、スタークは、現金の入ったスーツケースを渡す(2枚目の写真、矢印はガラス片の入った箱)。スタークがすぐに中を見ようとしたので、スプルートは「乗務員が見てます。火を点けないか心配で」と言うが、その言葉は数秒しか効力がなかった。スプルートが離れると、スタークはすぐに箱を開け、中身がガラス片だと気付く。当然、「そのガキをとめろ! 連れ戻せ!」と叫ぶ。ヤンが拳銃を構えて飛び出し、スプルートからスーツケースを奪う(3枚目の写真)。そのままバックして、うまく逃げられるハズだったが、出口の階段の前にはピチェがいて、伯母にもらったビー玉を通路にバラまく。ヤンは滑って転び、そのままタラップを転げ落ち、紙幣が散乱する(4枚目の写真)。
  
  
  
  

怒ったヤンは、階段の上のピチェ目がけて撃つが(1枚目の写真)、タラップなので揺れて当たらない。ヤンは撃つのをやめてタラップを揺さぶり、ピチェは落ちまいとタラップを駆け下り、ヤンに飛びかかる。しかし、結局捉まり、銃を突きつけられる。ツェッペリン号の開口部では、スタークがスプルートを捉まえ、「息子の命が大事なら、金を払った物を渡せ! さもないと、突き落とすぞ!」と脅迫する(2枚目の写真、赤い矢印はスタークとスプルート、黄色の矢印はピチェの頭)。ヤンが、「持っとらん。ダマしたんだ」と嘘を付くと、すかさずピチェが、「持ってる! セーターの下だ!」とバラす。破れかぶれになったヤンは、スターク目がけて銃を撃ち、弾は逸れたが、スタークは手を離し、スプルートは地面に落ちて倒れる。ヤンが茫然としている隙に逃げたピチェは、スプルートに駆け寄る(3枚目の写真)。ピチェの声を聞いスプルートは、「ねえ、ピチェ、ボクはもう友だちになれない。悪いのはボクだ、君を裏切ったから。なぜか分かる? 君はピチェで、ボクは違うから」と言うと、気を失う。
  
  
  

ツェッペリン号の警備を指揮していた本部長が寄って来て、「友達かい?」と尋ねる。「うん、そうだよ。それに、黒い手の仲間だし」。「黒い手?」。「うん、ボクの友だちと一緒さ」。その時、4人の仲間が、スタークがスプルートを台の上に拘束して現れる。ピチェが、「泥棒たちを捕まえたんだ」と説明する(1枚目の写真)。「本部長さん。彼らがクロックとトゥーン」。警官が、ヤンの持っていた箱を本部長に、「これを、所持していました」と渡す。箱の中は、本物のダイヤモンド。ピチェが、「残りの盗品は貨物室だよ」と補足する(2枚目の写真、矢印はダイヤ)。「全部の箱に、黒い手が付いてる」。新聞の一面は、「ピチェ・ベルは街のヒーロー/黒い手の謎解ける」だった(3枚目の写真)。
  
  
  

ピチェの父の店は、修理の靴を持って訪れた客で溢れ返っている(1枚目の写真)。そこに、本部長が入ってくる。「ピチェ、迎えに来れて光栄だ」。「何に?」。「パレードを準備中だよ。君と黒い手の お仲間のために。それに、勲章もな」(2枚目の写真)。「それ、いいコト?」。「市長から、ご褒美も もらえる」。「市長さんに言ってよ。スプルートが治るまで待って、って」。そして、いよいよパレードの日。オープンカーに乗ったピチェは、仲間の真ん中に立って、「指揮者の手振り。ヨゼフだと、こう。女王様なら、こんな風…」と、いろいろとやってみせる。スプルートに「君流の、やり方は?」と訊かれると、「ボク? 目を閉じて、百万長者みたいに手を振る…」と両手を掲げるように上げてみせる(3枚目の写真)。
  
  
  

「25年後」と表示される。1930年代に25を足せば1950年代末になる。街の雰囲気も全く変わっている。時代が止まったように変わっていないのはフェールマン薬剤店だけ。店の入口にオーゼビエスが立って新聞を読み、脇で、頭の禿げかかったヨゼフが繕い物をしている(写真、矢印は父のクツ下)。オーゼビエスが記事を見て、「誰が、想像しただろう。ピチェ・ベルが、百万長者になるなんて」と言う。ヨゼフ:「まさかね」。「新聞報道では、アメリカの百万長者だと」。「そんな話 信じない。新聞は、嘘を書くから」。「そう、思うか?」。「絶対さ。白を黒と言いくるめるんだ」〔前に出てきた表現〕
  

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